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タイトル: Helminth of Japanese urodelans: a parasitological approach to the alien species problem and challenges in systematic confusion
著者: Tsuchida, Karin
土田, 華鈴
発行日: 2023/03/21
抄録: 日本の両生類相は、分子的手法の導入による分類の見直しにより、近年ますますその豊かさと固有性の高さが明らかになっている。しかし、昨今の環境問題により両生類、特に有尾類の個体群の減衰は著しい。本研究は、環境問題の1つである外来種問題について、宿主-寄生者関係の撹乱と言う観点からアプローチした。また宿主有尾類の分類の見直しに伴い、その寄生性蠕虫類の種多様性・固有性も再検討が必要である。そこで、有尾類における外来種問題の寄生虫学的評価と、有尾類の寄生虫の分類学的問題の解決をテーマとして、以下に説明する3章から成る研究に取り組んだ。 第1章では、京都の交雑・外来オオサンショウウオ類の寄生虫相を解明し、外来種移入の影響を寄生虫相から評価することを目的とした。遺伝子鑑定でチュウゴクオオサンショウウオAndrias davidianusまたはこれと日本産オオサンショウウオA.japonicusとの交雑個体と判別された計27個体について、文化庁の許可を得て寄生虫相の調査をした。その結果、Liolope copulans、Amphibiocapillaria tritonispunctati、Spiroxys hanzaki、Falcaustra sp.を検出した。未分類のFalcaustra sp.以外の種は在来オオサンショウウオから検出例があり、在来種であると考えられた。つまり、在来寄生虫が交雑・外来オオサンショウウオ個体群を新たな宿主として利用している(=スピルバック)ことが明らかとなった。スピルバックは新たな宿主-寄生虫関係の構築により寄生虫の個体群動態を変化させる可能性があり、それにより在来宿主への寄生率が増し、病害リスクを増大させることが懸念された。すなわち、京都の在来オオサンショウウオ個体群は外来オオサンショウウオ移入により、在来寄生虫を介して潜在的リスクの増大を抱えていると示唆された。 第2章では、京都・三重のオオサンショウウオ類から得られたKathlaniidae科線虫(Cosmocercoidea上科)を分類し、その系統関係を解明することを目的とした。交雑オオサンショウウオ29個体と在来オオサンショウウオ4個体について寄生虫相を調査した。その結果、両者の腸管から3種のKathlaniidae科線虫を検出した。Falcaustra hanzaki Tsuchida, Urabe et Nishikawa, 2023(第1章のFalcaustra sp.に該当)は、京都のオオサンショウウオ類に広く寄生した。Urodelnema takanoensis Tsuchida, Urabe et Nishikawa, 2023は、京都の高野川の交雑オオサンショウウオからのみ検出された。Megalobatrachonema nipponicumは京都と三重の交雑・在来オオサンショウウオから検出された。新種となるF.hanzakiとU.takanoensisが在来寄生虫かどうかは判断できなかった。分子系統解析により、Megalobatrachonema属は側系統群であることがわかった。また、本属の2亜属(Megalobatrachonema亜属・Chabaudgolvania亜属)は系統関係を反映しておらず、これらの亜属の分類形質は、種レベルの同定形質であることが示唆された。Cosmocercoidea上科は3つのクラスターに区分され、その中でKathlaniidae科は2つの亜科からなるクラスターに分割された。Kathlaniinae亜科の種は別上科であるSeuratoidea上科の種とクラスターを形成し、Cruziinae亜科の種は同一上科のCosmocercidae科の種とクラスターを形成した。このような高位分類群レベルでの混乱は、分類体系の抜本的な見直しの必要性を強く示すものである。 第3章は、日本産両生類に寄生するMesocoelium属吸虫の種を明らかにすることを目的とした。Mesocoelium属は世界中の両生爬虫類に寄生するが、成虫の形態的特徴の希薄さから分類学的に課題が多い。日本の両生爬虫類からは本属吸虫が計8種記載されているが、近年の総説はM.brevicaecum Goto et Ozaki, 1929とM.geoemydae Ozaki, 1936の2種を有効名としている。しかし、本属吸虫の分類形質は論文によって異なり、ホロタイプやバウチャー標本を参照することなしに結論が導かれることが多い。そこで本研究では、国内の様々な両生類と台湾産セダカヘビ類から吸虫を得て調査を行い、また可能な限りホロタイプやバウチャー標本の再観察を行った。その結果、本研究で調査したMesocoelium属標本は2種に分類された。M.brevicaecumは多様な両生類に広く寄生した。M.monas (Rudolphi, 1819)は、福島と対馬(長崎)のサンショウウオ科に寄生し、台湾産セダカヘビ類からも検出された。また、鹿児島のコギセルガイ類から検出されたMesocoelium sp.1 (Waki et al. 2022)はM.brevicaecumとM.monasとは別種であることが判明した。形態的にM.geoemydaeと同定される種は得られなかった。従って、日本には最低3種のMesocoeliumが分布していると結論した。また、M.brevicaecumのCOIシーケンスを用いた解析から、本種の遺伝的種内変異は地理的距離と相関があること、脊椎動物宿主への特異性は非常に低いことが示された。 第1章と第2章では、寄生虫の存在が引き起こす外来種移入のリスクを示した一方、各地域の寄生虫研究の不足が明示された。持続可能な種の保全のため、各地域の寄生虫相の理解や感染状況のモニタリングが必要である。また第2章と第3章を通じて、寄生虫分類学における様々な課題が提示された。これらの解決のため、分子系統学的研究をさらに進めると共に、形態学の再検討がより重要となると考えられた。
内容記述: 環課第69号
NII JaLC DOI: info:doi/10.24795/24201k132
URI: http://usprepo.office.usp.ac.jp/dspace/handle/11355/825
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